魅力向上。
- 書いた日:2007.12.24
「眼鏡……ねぇ」
リュウセイは、ライの顔を横から覗きこみながら、ぼそりとつぶやいた。 おそらく独り言だったのだろうが、ライの耳には届いたようだった。
「何だって?」
コンソールを操作している手を止めることなく、ライが聞き返す。 R-1のコクピット。 二人は、モーションデータの再構成のための作業をしている最中だった。
「いや……その、カーラ達が話してたんだよ」
思わず口をついて出た言葉を聞かれて、リュウセイはバツが悪そうに答えた。
「眼鏡かけてる男性が、かっこいいとかなんとかって」
ライは興味なさそうに、ふうん、と相槌を打った。
「しかし、ユウキ少尉は眼鏡をかけていないだろう」
「んー、それとこれとは別問題らしくて」
コンソールパネルからの青みを帯びた光が、ライの金髪に当たって乱反射していた。 リュウセイはその光をぼんやりと眺めながら、尋ねてみた。
「なあ、お前はかけないの? 眼鏡」
「かける必要が無い」
ライはうるさそうに答えた。 どうやらめんどうな作業をしているところだったらしい。
「……あっそ」
たぶん似合うのにな、とリュウセイは口の中だけでつぶやいた。
しばらくの沈黙の後、ライが口を開いた。
「……カーラ達によると」
「え?」
声が小さかったため、聞き取ろうとリュウセイは顔を近づけた。
「眼鏡をかけている男性は格好良く見えるのだろう?」
一呼吸置いて、ライはパネルを叩くのをやめ、リュウセイの方に向き直った。
「俺が、これ以上女性に言い寄られても構わないと?」
「……へ?」
予期せぬ問いかけに窮するリュウセイの頬を、ライは両手で包み込んだ。
「構わないんだな?」
「か、構う! いや、てか、困る!」
リュウセイは、ライの手を振り払うようにして頭を振った。
「これ以上お前がもてるのは、俺の精神衛生上、よくないっ!」
「なら、そんな馬鹿なことはもう言わないことだ」
ライは再びコンソールパネルに向き直り、作業を再開した。
「……はいはい。俺が馬鹿でした……」
リュウセイはがっくりと肩を落とした。
そんなリュウセイを横目で見て、ライはつぶやいた。
「……まあ、お前が見たいというのなら、考えてやらなくもないが」
「お前、さっきと言ってることが……」
違うぞと言いかけたリュウセイの口の前に、ライはすっと人差し指を立てた。 そして、少しだけ悪戯っぽく微笑んだ。
「ただし、二人だけの時にな」
END