魅力向上。

「眼鏡……ねぇ」

リュウセイは、ライの顔を横から覗きこみながら、ぼそりとつぶやいた。 おそらく独り言だったのだろうが、ライの耳には届いたようだった。

「何だって?」

コンソールを操作している手を止めることなく、ライが聞き返す。 R-1のコクピット。 二人は、モーションデータの再構成のための作業をしている最中だった。

「いや……その、カーラ達が話してたんだよ」

思わず口をついて出た言葉を聞かれて、リュウセイはバツが悪そうに答えた。

「眼鏡かけてる男性が、かっこいいとかなんとかって」

ライは興味なさそうに、ふうん、と相槌を打った。

「しかし、ユウキ少尉は眼鏡をかけていないだろう」

「んー、それとこれとは別問題らしくて」

コンソールパネルからの青みを帯びた光が、ライの金髪に当たって乱反射していた。 リュウセイはその光をぼんやりと眺めながら、尋ねてみた。

「なあ、お前はかけないの? 眼鏡」

「かける必要が無い」

ライはうるさそうに答えた。 どうやらめんどうな作業をしているところだったらしい。

「……あっそ」

たぶん似合うのにな、とリュウセイは口の中だけでつぶやいた。

しばらくの沈黙の後、ライが口を開いた。

「……カーラ達によると」

「え?」

声が小さかったため、聞き取ろうとリュウセイは顔を近づけた。

「眼鏡をかけている男性は格好良く見えるのだろう?」

一呼吸置いて、ライはパネルを叩くのをやめ、リュウセイの方に向き直った。

「俺が、これ以上女性に言い寄られても構わないと?」

「……へ?」

予期せぬ問いかけに窮するリュウセイの頬を、ライは両手で包み込んだ。

「構わないんだな?」

「か、構う! いや、てか、困る!」

リュウセイは、ライの手を振り払うようにして頭を振った。

「これ以上お前がもてるのは、俺の精神衛生上、よくないっ!」

「なら、そんな馬鹿なことはもう言わないことだ」

ライは再びコンソールパネルに向き直り、作業を再開した。

「……はいはい。俺が馬鹿でした……」

リュウセイはがっくりと肩を落とした。

そんなリュウセイを横目で見て、ライはつぶやいた。

「……まあ、お前が見たいというのなら、考えてやらなくもないが」

「お前、さっきと言ってることが……」

違うぞと言いかけたリュウセイの口の前に、ライはすっと人差し指を立てた。 そして、少しだけ悪戯っぽく微笑んだ。

「ただし、二人だけの時にな」

END