お早めにどうぞ

お早めにどうぞ

夜の六本木くんで、お誘い。
朝が来るまでに、おいしく食べてあげてください。

以下、夜モード炸裂なSSです。

――すぐに来てください。

先刻受け取ったメールには、それだけが書かれていた。 新宿はいぶかしく思いながらも、送り主――六本木の部屋へとやって来た。

チャイムを鳴らしてみても、応答はない。 新宿がドアノブに手をかけると、それは何の抵抗もなく開いた。

「六本木ー?」

新宿は、室内に向かって呼びかけた。 だが、答えは返ってこない。 覗き込んだリビングには、ただ家具が整然と並んでいるだけだ。

辺りを見回す新宿の目に、寝室のドアが映った。

(……やっぱり、そこか)

ドアを開けると、目当ての人物はすぐに見つかった。 ベッドの上に、明らかに寝具ではないものが横たわっている。

新宿はベッドの側まで行くと、その端にゆっくりと腰を降ろした。 背を向けている六本木の頭をくしゃりと撫で、声をかける。

「こら、六本木」

「……遅い。 本気で寝ちゃうところでした」

六本木はわざとらしく目をこすりながら、抗議の声を漏らした。

体の向きを変えた六本木を見て、新宿は一瞬言葉に詰まった。

六本木は制服姿だったが、ひどく着崩れていた。 ベストの前は全部開けられ、シャツはかろうじてボタン1つで留まっているだけ。 いつもは首元をストイックに整えているクロスタイも、今は用を成していない。

新宿は困ったように眉を寄せ、分かりきった質問を投げかけた。

「……何のつもりだ? こんな夜中に呼び出して」

「見て分かりません?」

六本木は軽く体を起こし、新宿の方へと腕を伸ばした。

緩く交差しているだけのネクタイの結び目に指をかけ、するりと引き抜く。 そのまま腕を軽くひねって、ネクタイを自分の腕に絡めていく。 新宿は、そんな様子をただ黙って見つめていた。

「ん……」

絡め取ったネクタイに、六本木がそっと口を付けた。 鳥が餌をついばむように、唇でマゼンタ色の布を弄んでいく。 自身の腕に巻いたネクタイと戯れているだけなのに、その仕草はひどく艶かしい。

「……ったく、しょうがないな」

新宿は小さくため息をつくと、ネクタイが巻きついた六本木の腕を取った。 そのまま、強引に彼の頭の上へとねじり上げる。

「……新宿さん」

「そんなのより、俺にキスしろ」

六本木は、蠱惑的に目を細めた。 うっすらと頬を上気させて、新宿に確認する。

「……朝まで、ですからね?」

それは、六本木が今の状態――夜の魔力を纏った状態でいられる期限。 そしてその言葉の裏には、もう一つの意味がある。

「ああ。 分かってる……」

六本木の細身の体を組み敷きながら、新宿は言葉を続けた。

「……朝まで、たっぷり堪能させてもらうよ」

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